第102章

「……助けてくれて、ありがとう」

雪奈の声はひどく小さかった。けれど、わざと保っている平静さと、距離を置く冷たさが滲んでいる。

その言葉に、小林凌輝の瞳が、ほんのわずかに揺れた。瞳孔がきゅっと縮む。

雪奈は慌てて顔を背ける。

もう見られなかった。せっかく積み上げた心の壁が、あんな脆くて複雑な視線に触れた瞬間、音を立てて崩れてしまいそうで。

「……ちゃんと休んで。私、先に出るね」

逃げるみたいに集中治療室を出た。足取りはふらつき、廊下に出ても呼吸が整わない。

小林凌輝は、去っていく背中を見つめていた。目の奥に灯っていたかすかな光が、少しずつ、少しずつ翳っていく。

背後で自動ドア...

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