第106章

「別に」

小林凌輝は視線を外し、何でもないふうを装って窓のほうを見やった。けれど指先だけは、無意識にシーツの端を擦っている。

「ちょっと聞いただけ。何か大事そうなもの、見つかった? 車の中に、落としたものがある気がしてさ」

軽い調子を作ってはいる。だが、そこに混じるわずかな強ばりと探り――雪奈は見逃さなかった。

彼が探しているのは、きっとあの写真だ。

雪奈は睫毛を伏せ、ポットを手に取ると、ベッドサイドのグラスへ静かに水を足した。声は淡々としていて、感情の輪郭が読めない。

「大事なものって……何のこと? 財布とか、身分証?」

「秘書の人が『全部そろってます』って。あとは細かいもの...

ログインして続きを読む