第125章

男はマスクをしていなかった。濃い灰色のシャツを着込み、袖をまくって逞しい前腕を覗かせている。

年の頃は五十前後。顔立ちは平凡で、むしろ印象に残りにくい。人混みに紛れたら、二度と見つけられない類の顔つきだ。

だが――目だけは、違った。

濁りの奥に狡さと冷酷さを宿したその眼が、いまは獲物を品定めするような愉しげな光を帯び、ずぶ濡れでみっともなく縛られた雪奈を頭の先から足元まで舐め回していた。

雪奈の心臓は胸の内で暴れ回る。けれど顔には、より強い恐怖と怒りを貼りつける。声は震えた。

「あなたたち、誰? なんで私をさらうの? 知らない、会ったこともない!」

中年男はすぐには答えない。手元...

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