第136章

山本祐翔は返事をしなかった。

ただ、その聞き慣れた名前が耳に入った瞬間、瞳がわずかに揺れる。淡々と視線を引き、再び目を閉じた。

その「何を言っても響かない」態度が、山本莉乃の癇に障った。

彼女は勢いよく立ち上がり、椅子を一脚、がんっと蹴り倒す。甲高い声が部屋を裂いた。

「何がいい子ぶってんの。どうせ頭の中は白井雪奈のことばっかでしょ? でもあの子はね、旦那といちゃいちゃするのに忙しいの。あんたのことなんて構ってる暇ないわ」

祐翔のまぶたがぴくりと動いた。だが、目は開かない。

莉乃は荒い息のまま数秒睨みつけ――ふっと、急に落ち着いた。

スカートの皺を指先で整え、甘ったるい笑みを作...

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