第159章

山本祐翔はちらりと彼女を振り返ったが、余計なことは聞かずに小さくうなずき、秘書の後ろをそのまま歩き続けた。

白井桃奈は踵を返すと、ハイヒールを鳴らしながら、慌てるでもなく給湯室のほうへ向かう。

扉を押して中へ入った瞬間、洗面台の前に立つ雪奈の姿が目に入った。

雪奈は俯いたまま手を洗っている。じゃあじゃあという水音が指先を叩き、開く音に気づくと反射的に顔を上げ、鏡越しにこちらを見た。

鏡の中。雪奈の少し後ろに白井桃奈が立っている。手には口紅。ゆっくりとキャップを外し、鏡に向かって淡々と塗り直し始めた。

視線が、鏡の中で一瞬だけ交わる。

雪奈は蛇口を止め、水滴をぱっぱっと振り落とすと...

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