第177章

「snow姉さん、小林社長、もうデスクごとこっちに引っ越してくる気じゃないですか」

雪奈は図面を引いていた。顔も上げず、ペン先だけが紙の上をすいすい滑る。声音は淡々としている。

「暇なんでしょ」

吉田辰哉は彼女の手元をちらりと覗いた。設計図は線がなめらかで、構成も無駄がない。直すところなど見当たらない。

けれど視線は、そのまま少し上へ――雪奈の顔へ移った。

口元が、わずかに持ち上がっている。本人すら気づいていないような、柔らかな笑み。

吉田辰哉は察したが、あえて突っ込まない。自分のオフィスへ戻っていく背中に、含みのある笑いだけを残して。

雪奈は彼が出ていってから、ようやくペンを...

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