第23章

雪奈は腰を下ろすと、背筋をすっと伸ばし、両手を鍵盤の上に添えた。ほんの一瞬だけ息を整え――指先が、ふわりと落ちる。

澄み切った、しかも狂いのない音がさらさらと流れ出した。記憶の中で、幾度となく反復してきた断片。

ほんの数小節。それだけで、情の層も、強弱の繊細な揺れも、くっきりと浮かび上がる。

マネジャーの目がぱっと光り、顔いっぱいに歓喜が広がった。勢いのまま、何度も言葉が弾む。

「いい、最高です! お嬢さん、どうかお願いします!」

「お気になさらず」

雪奈は手を引き、軽く会釈する。

「年上の方を待っているんです。来るまでのあいだならお手伝いできます。到着したら、私は失礼します」...

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