第86章

余計な憶測や、根も葉もない噂まで呼びかねない。

そう思った雪奈は、隣に立つ山本祐翔へちらりと視線を送った。祐翔の瞳は、沈んだ色をしている。

けれど一瞬だけ目が合ったそのとき、山本祐翔もこの場の気まずさを察したのだろう。結局、雪奈に向かって小さくうなずいた。

雪奈は唇をきゅっと結び、迷いを飲み込むようにして、そっと小林凌輝の掌へ自分の手を預けた。

大きくて温かい手。薄いまめの感触があり、冷えた彼女の指先をすっぽり包み込む。

ダンスフロアへ足を踏み入れると、小林凌輝は紳士的に腕を回し、腰に触れない程度にふわりと支える。距離は、あくまで適切に。

音楽に合わせてゆっくりと歩を運ぶ。雪奈の...

ログインして続きを読む