第87章

数分が過ぎてようやく、小林凌輝は我に返った。秘書へかけ直した声は、喉が裂けそうなほど掠れている。

「すぐに人員を増やして、あのご老人を厳重に守れ。俺が帰国したら真っ先に会いに行く。この件は、四人目に知られるな。特に白井桃奈の耳に入ったら終わりだ。分かったな?」

「承知しました」

通話を切ると、小林凌輝は冷たい壁に背を預け、荒く息を吐いた。暴れる鼓動と、胃の底からせり上がる感情を、どうにか押し鎮めようとする。

――次の瞬間、彼はまた視線を奪われた。

静かに座り、横顔だけをこちらに向ける、細い影。

胸の奥をぐっと握り潰されたみたいに痛み、熱が目の奥に滲む。

最初から、相手を間違えて...

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