第88章

午後のパリ博物館は、観光客で肩がぶつかるほどの混雑だった。

雪奈はシンプルな半袖にパンツという格好に着替えていた。人が多いせいか、誰もが暗黙の了解で声を潜めている。彼女は壁に掛けられた絵を見上げ、さっきまでのざわつきが嘘みたいに、胸の内が少し落ち着いていくのを感じた。

山本祐翔は数歩遅れた位置で立ち、彼女の視線を追って同じ一枚に目を向ける。

館が所蔵する、有名画家の抽象画。色彩は強烈で、否応なく視線を引き寄せる。

けれど祐翔は芸術畑の人間とはいえ、こういうタイプにはあまり興味がない。視線を外した、その瞬間だった。

――見られている。

背中の皮膚が薄くなるような、あの感覚。

祐翔...

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