第92章

小林凌輝の鼓動が、いきなり跳ね上がった。スマホを握りしめる。掌にじっとり汗がにじんでいることにも気づかない。

次の瞬間、受話口から秘書の声が戻ってきた。

「それが、奥さま――」

「ご本人が指さしたのは、奥さまが十歳前後の頃の写真でした。『はっきり覚えている』と。あの日の午後、その女の子が男の子を助けようとして、鉄のフックで腕を大きく裂いて……かなりの出血が――」

その先は、もう耳に入らなかった。最初の数語だけが頭の中で何度もこだまし、耳の奥がぶうん、と鳴る。

薄々の予感はあった。だが確証に変わった瞬間、身体が言うことをきかない。立ち尽くしたまま、血が一気に頭へ昇り、次いで急速に冷え...

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