第96章

ぼんやりしたまま、掌のスマホがぶるりと震えた。秘書からだ。

「小林社長、本日10時より宏源グループとのオンライン会議が――」

「キャンセル」

小林凌輝はデスクへ戻り、燃え残った最後の一本を灰皿に押しつけて揉み消す。声は掠れ、ぞっとするほど低かった。

「午前中の予定は全部だ。全部キャンセルしろ」

秘書は異変を察したのだろう、余計なことは聞かない。

通話を切ると、小林凌輝はデスク奥の休憩室へ入り、水で乱暴に顔を洗った。

氷みたいな水が肌を刺しても、胸の奥に居座る鈍い痛みは消えない。

……いい。終わらせよう。自由を、彼女に返す。

たぶん、それが今の自分にできる唯一のこと。彼女がい...

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