第98章

通りの向かい側に停まった別の車内。サングラスに分厚いマフラーで顔を隠した女が、窓越しに小林凌輝の背中をねっとりと追っていた。

サングラスの奥の視線が、雪奈が去った方角からゆっくり戻る。鮮烈な口紅を引いた唇が、怨嗟と狂気を孕んだ弧を描いた。

「離婚だけで済むわけないでしょ。地獄に落ちてもらわなきゃ、私の恨みは晴れない」

白井桃奈の瞳は、底まで狂っていた。スマホを取り出し、ある番号へ迷いなく発信する。

「もう熟慮期間に入ってる。動いて。いい? 雪奈の命が欲しいの。小林凌輝が邪魔するなら……まとめて地獄に送って」

受話口の向こうから返ってきたのは、低くしゃがれた男の声だった。抑揚のずれた...

ログインして続きを読む