第111章 彼女を楽にさせるな

西園寺京夜の視線が書類に落ちる。「離婚協議書」という文字が、針のように眼球を突き刺した。

九条玲奈が一歩進み出る。その声は柔らかく、細やかな気遣いに満ちていた。

「京夜、立夏お姉さんに会ってきたわ。彼女……とても落ち着いていた。協議書を見せたら、ほとんど迷わずにサインしたの」

彼女はそう言いながら、恐る恐る西園寺京夜の顔色をうかがった。

「それから、一つだけお願いがあるって。……ここを発つ前に、叔母さんにもう一度だけ会いたいそうよ。私も、死にゆく人の最後の願いだし、と思って、先に承諾しておいたわ」

西園寺京夜は協議書を手に取り、最後のページを開いた。

葉山立夏の署名は清らかだが、...

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