第269章 泣かないで、心が痛む

葉山立夏は身じろぎ一つせず、彼を一瞥することさえなかった。

彼女の全世界は、目の前にある固く閉ざされた扉と、その向こう側にいる生死の境を彷徨う男の存在だけに縮小されていた。

どれほどの時間が過ぎたのだろうか。やがて、手術室の赤いランプがふっと消えた。

扉が押し開かれ、医師が姿を現した。マスクを外したその顔には、隠しきれない疲労の色が滲んでいた。

葉山立夏は弾かれたように椅子から飛び起き、医師の目の前へと駆け寄った。

口を開いたものの、喉がカラカラに乾ききっており、たった一つの音節すら紡ぎ出すことができなかった。

「弾丸は摘出しました」医師は彼女の蒼白な顔を見つめ、簡潔に告げた。「...

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