チャプター 82

ケイン視点

風が監視塔の金属フレームを吹き抜け、轟音と共に全ての音をかき消していく。それが俺たちにとって、格好の隠れ蓑となった……。

雪が割れたガラスのように鋭く顔に叩きつけられるが、俺は身じろぎもしない。

動くわけにはいかなかった。

体中のあらゆる本能が「走れ」と叫んでいる――逃げるためではない。ディミトリが隠れている場所へ向かうためだ。

テッサをこれほど長く俺から遠ざけていた、あの怪物の元へ。

奴らが犯した罪への罰として、血の雨を降らせるために。

だが、俺は踏みとどまった……。

キオンの部下たちが、今まさに境界線を越え、影のように忍び寄っている。...

ログインして続きを読む