第11章

湖湾の別荘に戻り、真っ先にドアを開けて中へ入る。

リビングの隅々まで視線を走らせたが、ケンの姿はない。

私は寝室へ向かおうと背を向けた。

「今日は随分と早い帰りだな」

二歩も進まないうちに、背後からケンの声がした。

勢いよく振り返る。

ケンは黒いTシャツに身を包み、キッチンの入り口に寄りかかっていた。腰の後ろで結ばれた黒いエプロンの紐が、どこか緩く垂れ下がっている。

私は探るように尋ねた。

「今日、外に出た?」

ケンは平然と答える。

「いや。スープを煮込んでいたんだ。いい匂いがしないか?」

言われてみれば、確かに心が安らぐような香ばしい匂いが漂っている。

嘘はついてい...

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