第12章

私は思わず呆然としたが、少しして力なく笑った。

「ええ、怖いわ。彼とは十年も一緒にいたもの。彼がどれだけ周防春香を気にかけているか知っているし、彼女の言葉なら、彼は決して疑わない」

「たとえ婚約していても、私は周防春香の指一本にも敵わないのよ」

「だから早く逃げて。もし彼に見つかったら、私じゃあなたを守りきれない」

ケンは眉を固く寄せ、黙り込んでしまった。

私はもう一度、彼を急かすしかなかった。

「行くなら、一緒だ」

ケンの口調は断固としていた。

彼の漆黒の瞳を見つめていると、不思議と心の底のパニックが鎮まっていくのを感じた。

「小林さん、これが売買契約書です。サインをいた...

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