第8章

誰かに慰めてもらうというのは、確かにいいものだ。

翌日になると、昨日の出来事はもう嘘のように気にならなくなっていた。

バレエ団に到着し、いつも通り同僚たちに挨拶を済ませてレッスン室へ向かう。

「台上一分、台下十年」という言葉がある。

舞台での一瞬の輝きは、舞台裏で積み重ねた十年もの歳月によって作られるという意味だ。

私は一分一秒たりとも気を抜くわけにはいかない。

集中して練習に没頭していたその時、乱暴にドアが開く音が静寂を破った。

動きを止め、眉をひそめて入り口に視線をやる。

そこに立っていた人物を確認し、私の声は自然と冷ややかなものになった。

「佐川団長、何かご用ですか?」

佐川は居丈高に言い放った。

「小林紗夜、わざわざ伝えに来てやったぞ。来週の公演にお前の出番はない。それだけじゃない、今後の公演もお前が舞台に立つことはないと思え」

怒りが込み上げてくるのを必死に抑え、ストレッチを止めて問い返す。

「どうしてですか?」

「よくもまあ、そんなことが聞けたものだ! 立花さんがどういうお方か知っていて、あんな態度を取ったのか! お前のせいで、バレエ団ごと業界のブラックリストに入れられたいとでも言うつもりか!」

佐川は鼻で笑い、軽蔑の眼差しを向けてくる。

その目には、私が生きた人間としては映っていない。

まるで、意のままに操れるただの道具か何かのように。

私は納得がいかず、反論した。

「私は立花さんを怒らせるようなことはしていません。言いがかりはやめてください」

「まだ強がるか! 立花さんがお前を叱責したことは、もう周知の事実なんだ。誰もがお前が立花さんの不興を買ったと知っている。もはやここに、お前の居場所などないんだよ!」

心の中では不安の大波が荒れ狂っていたが、決して弱気は見せなかった。

「ここはあなたのバレエ団ではありません、あなたの指図は受けません! 私はここのプリンシパルです。辞めさせるというなら、団長を通してください!」

佐川はまるで傑作なジョークでも聞いたかのように、腹を抱えて笑い出した。

「主役の座すら降ろされた分際で、よくもまあプリンシパルなどと名乗れたものだ!」

あまりに耳障りな笑い声に、私は相手にするのをやめ、団長を探しに行こうと背を向けた。

その瞬間、佐川が私の腕を強引に掴んだ。

「小林紗夜、あまり自分を過大評価するなよ。俺が首を縦に振らない限り、このバレエ団がお前を置いておけると思うか?」

腕を万力のように締め上げられ、痛みと焦りで叫んだ。

「放して!」

佐川はさらに力を込め、私を引き寄せると、もう片方の手でいやらしく私の頬を撫で回した。

吐き気が込み上げる。

「触らないで!」

佐川は卑下た笑みを浮かべ、脅すように言った。

「立花さんを敵に回した以上、お前が頼れるのは俺しかいないんだよ。大人しくしろ。俺を気持ちよくさせてくれれば、見逃してやらなくもないぞ」

言うが早いか、彼は獣のように私をマットに押し倒し、覆いかぶさってきた!

「放して!」

「この変態、どいて!」

必死に抵抗し、拘束から逃れようともがく。

しかし、女の力では佐川に敵わない。

あっという間に組み伏せられる。

這い回る手が不快でたまらない。彼は勝ち誇ったように言った。

「俺が目をかけてやるのは光栄なことなんだぞ! 小林紗夜、調子に乗るな!」

耐え難い屈辱と怒りが全身を駆け巡る。

私は渾身の力を振り絞り、膝を彼の股間めがけて突き上げた。

「ぐあっ!」

野太い悲鳴が上がる。

私を押さえつけていた力が反射的に緩んだ。

その隙を逃さず、私は彼を突き飛ばし、手足を使って無我夢中でマットから這い上がった。

なりふり構わず外へと駆ける!

今までもセクハラまがいのことはあったが、ここまで無法な振る舞いは初めてだ。

頭の中が真っ白になる。

レッスン室を飛び出すと、騒ぎを聞きつけた周防春香と鉢合わせになった。

「小林紗夜、あなた……」

今は彼女にかまっている余裕はない。

私は更衣室からバッグをひったくり、逃げるようにその場を後にした。

タクシーに乗り込んだ後も、先ほどの光景がフラッシュバックして止まらない。

思い出すたびに、恐怖が増殖していく。

私は無意識に体を丸め、自分自身を強く抱きしめて震えを抑えようとした。

「お客さん、大丈夫ですか? 病院へ行きますか?」

運転手が私の異変に気づき、バックミラー越しに声をかけてくれた。

私は強く首を振った。

「病院じゃなくていいです、家へ送ってください……」

運転手はそれを聞くと、それ以上は尋ねてこなかった。

別荘エリアに着いて、ようやく潮のような恐怖が少し引いていくのを感じた。

まだレッスン着のままであることに気づき、慌ててバッグから上着を取り出して羽織り、車を降りて家へ向かう。

足早に歩き、パスワードを解除すると、何かに追われるようにドアを開けて中に入った。

「バン!」と粗暴にドアを閉める。

張り詰めていた糸が切れ、全身の力が瞬時に抜けた。

私はその場に崩れ落ちるように座り込んだ。

呼吸も整わない静かなリビングに、微かな足音が響く。

全身が強張り、勢いよくそちらを見上げた。

健がシンプルな白いエプロンを着て、柔らかな日差しの中に立ち、驚いた顔で私を見ていた。

次の瞬間、彼は大股で私の目の前まで駆け寄り、心配そうに問いかけた。

「どうしたんだ? 一体何があった!」

いじめられた悔しさと、人を傷つけた後の恐怖が、一気に心の中で暴れ出す。

すべての感情が喉元まで込み上げてきた。

でも……私はそれを無理やり飲み込んだ。

強引に口角を上げ、笑顔を作る。

「何でもないわ、ちょっと足が痺れただけ」

健は眉を深く寄せた。

「その様子で何でもないわけがないだろう? 教えてくれ、一体何があったんだ!」

私は小さく首を振った。

「本当に、何でもないの」

さっきの胸糞悪い出来事を、もう二度と思い出したくない。

今はただ、寄りかかる場所が欲しかった。

私は自ら手を伸ばして健の首に腕を回し、そっと彼の胸に顔を埋めた。

「聞かないで。少しこのままでいさせて」

薄い服越しに、彼の筋肉が一瞬強張るのがわかった。

私の突然の接近に戸惑っているようだ。

しかしすぐに、彼は力を抜いた。

優しく私の頭を撫で、低い声で言った。

「少しは落ち着いたか?」

彼の力強い心音を聞いていると、心のわだかまりが徐々に溶けていく。

私は顔を上げ、彼の真っ直ぐな鼻筋を見つめた。

視線はシャープな顎のラインへと滑り落ちる。

そして最後に、セクシーな喉仏で止まった。

何かに憑かれたように、私の指先がそこに触れた。

「どうした?」健が不思議そうに尋ねる。

声帯の震えが指先に伝わる。

見えない波紋のように。

一重、また一重と、私の心に広がっていく。

「健」

「キスしたい」

刹那、健の白い首筋に血管が浮き上がった。

彼が頭を下げようとした瞬間、私は唇を重ねた。

一度触れるだけのつもりだった。

しかし、健が突然攻勢に出た。

彼は私の首の後ろを強く押さえ、キスを深めた。

唇と唇が密着し、離れられない。

まるで世界に二人しかいないかのような親密さだ。

「待って」

灼熱の息遣いの中で、意識が少し朦朧とする。

しかし、体が制御不能な方向へ進んでいることは察知できた。

「私たち、早すぎない?」

一度目は事故だ。

誰も細かいことは気にしない。

でも今の私と彼はただの契約関係で、彼に対して恋愛感情がないことはよくわかっている。

理屈で言えば、契約外の関係を持つべきではない。

健の呼吸は荒く、敏感な首筋に何度も熱い吐息を吹きかけてくる。

彼はキスを続けながら囁いた。

「心のままに動けばいい」

その言葉は呪縛を解く呪文のように、私のためらいと懸念を一瞬で吹き飛ばした。

今の私は独身だ。世間の批判を背負う必要はない。

自分の望む生き方を自由に選べるのだ。

「あなたの言う通りね」

私は再び健の唇を求めた。

互いに絡み合い。

次第に、溺れていく。

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