第89章

「書斎を借りる。少しやることがある」

立花謙一はそう言い捨て、振り返りもせずに書斎へと歩き出した。

私は鼻で笑った。記憶力がいいことで。

たった一度来ただけなのに、我が家の間取りを完全に把握しているなんて。

「謙一、私も一緒に……」

周防春香が媚びるような上目遣いで追いかける。

「小林紗夜の世話をしに来たんじゃないのか? おとなしく彼女についていろ」

周防春香は猛然と振り返り、私を睨みつけた。その目には激しい怒りが宿っている。

私は気にせず眉を上げ、ニコニコとソファに身を預けた。

「ちょうど喉が渇いたわ。お水を持ってきてくれる?」

周防春香は怒りで頭から湯気が出そうだが、...

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