第94章

坂東が車から降りて、後部座席のドアを開けた。

「小林さん、どうぞ」

私は躊躇うことなく、車に乗り込んだ。

ただ、乗り込む際、視界の隅で街角に誰かの視線を感じた気がした。

反射的に目を向けたが、そこには誰もいなかった。

「何を見ている?」

立花謙一が私の視線を追う。

「別に」

私は淡々とシートに身を沈めた。

車はゆっくりとホテルのエントランスを離れる。

沈黙が車内に満ちていく。

口を利く気になれず、私は黙って窓の外を眺めていた。

今回、沈黙を破ったのは立花謙一の方だった。

「どこへ連れて行かれるか、気にならないのか?」

「どこでもいいわ」

どうせ本家か、あるいは別...

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