チャプター 10

オードリー視点

私は慌ててワイングラスを置き、指先の微かな震えを隠そうとした。

「ええ、本当に忘れられない体験です」私は無理に微笑んだ。「でも、ワインと言えば、ご心配なく。仕事中に飲むことは普段ありませんから」

キャスパーの視線は、何の遠慮もなく私に注がれたままだった。彼の唇がわずかに弧を描く。

「レーンさん、リラックスしてください。私はそんなに堅苦しい人間ではありませんよ」

話題がうまく逸れたことに、私は安堵した。

「分かりました、白状します。実は私、ワインのテイスティングが大好きなんです。特にワインが」

キャスパーはグラスを持ち上げた。

「ソーントン邸には、世界的な名品ばかりを揃えたワイ...

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