第159章

オードリー視点

ホテル従業員の心配そうな声に、私は沈みかけていた記憶の深淵から引き戻された。

はっと瞬きをすると、自分がプラザ・ホテルの廊下の真ん中で立ち尽くしていることに気づいた。片手で壁に寄りかかったまま。

「大丈夫です」なんとかそう言うと、私は背筋を伸ばし、安心させるように微笑んでみせた。「少し、めまいがしただけです。ありがとうございます」

ぱりっとした制服に身を包んだ若い男性従業員は、納得していない様子だったが、プロとして頷いた。

「もちろんです。何か必要なことがございましたら、いつでもお申し付けください」

彼が立ち去るのを見届けてから、私は堪えていた息を吐き出した。

静かなチャイム...

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