第160章

デイジー視点

マンハッタンのアッパーイーストサイドを滑るように進む、コール家のベントレー。その窓から、私は外を眺めていた。

今朝、父がオードリーを育ててくれたマーガレット・ベイリーにお礼を言いに行く、と告げたのだ。

オードリーの名前が口にされるだけで、今でも不安の波が押し寄せてくる。でも、それを愛想笑いで隠すのは、以前より上手くなっていた。

「もうすぐ着くぞ」父がオーダーメイドのスーツを直しつつ言った。

隣でイーサンが居心地悪そうに身じろぎした。

「本当にこれが適切なんでしょうか? まだオードリーと再会も果たしていないのに」

「それが正しいことよ」母が口を挟んだ。「マーガレット...

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