チャプター 35

オードリー視点

フィンリーは心底不満そうな顔で首を振った。

「オードリー、それはライオンの口に頭を突っ込むようなものだ」

私がまだ何の反応も示さないのに気づくと、彼は真剣な表情になって、もう一度私に視線を固定した。

「いいか、あんな男からは絶対に手を引け。ああいう連中と僕たちは住む世界が違いすぎるんだ」

「はいはい、わかってるわよ」私は気のない返事をした。

実のところ、もうやめようと思ったことは何度もあった。

でも、いざ匙を投げようとするたびに、ノアの黒葡萄みたいな瞳が頭に浮かんでくるのだ。

あの子は私の決意をいとも簡単に溶かしてしまう。ただ背を向けて逃げ出すなんて、到底できそうになかった。...

ログインして続きを読む