チャプター 58

ドロシー視点

電話を切り、アンティークのサイドテーブルに受話器を置くと、私は深くため息をついた。

「ベイリー家の娘とは縁を切りなさい、か」と、私は椅子から立ち上がりながら独りごちた。「それも悪い考えではないかもしれないわね」

あの絵画盗難という不名誉な事件以来、私はシエナ・ベイリーの人格に深刻な疑いを抱くようになっていた。

キャスパーが契約を破棄したいと言うのなら、私は大賛成だった。

唯一の問題は、その書類をどこにしまったか思い出せないことだった。何しろ、もう五年も前のことなのだから。

最初に届いたときに一度目を通しただけで、あとは安全な場所に保管し、それ以来触れてもいなかった。

私は結婚契...

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