チャプター 76

オードリー視点:

クララは頷き、膝の上の布ナプキンを指でもてあそんでいた。

店内の柔らかな照明が彼女の顔に影を落とし、その表情に浮かぶ複雑な感情を半分ほど覆い隠している。

「彼は……」私は慎重に言葉を選びながら、ためらった。「フィンリーはこの婚約のこと、本当に知っているの?」

彼女は一瞬だけ私と目を合わせると、再び頷いた。その肯定の仕草は、私の混乱を深めるだけだった。

「じゃあ、もしかして……」私は身を乗り出し、声を潜めた。「フィンリーはこの結婚を望んでいないの? 何らかの形で強制されてるとか?」

クララは首を横に振った。「彼の反応はわからないの。婚約のことを知ってすぐに、あなたに連絡したか...

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