第110章

柳川夏苑が振り返ると、三、四歳ほどの小さな女の子がベビーシッターに抱かれていた。ぷくっと頬をふくらませ、怒りで顔がまん丸だ。

夏苑はその子を上から下まで一度だけ眺め、目にわずかな吟味の色を宿す。

――ただの子どもが、あんな絵を描ける?

裏で誰かが糸を引いているに決まってる。

嘲る言葉を吐こうとした、その瞬間。

藤原承弦が先に歩み寄った。

萌子を見た彼の表情が、ふっと柔らかくほどける。

「萌子、また会ったな」

「あなた、イケメンおじちゃん! すごい偶然だね~」

「これ、お前が描いたのか?」

声が無意識に優しくなる。

萌子はこくんと頷き、胸を張った。

「萌子が描いた!」

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