第120章

「……今、なんて言った?」

藤原承弦は声を落とした。抑えているはずなのに、わずかな焦りが滲む。

不意の詰問に、平賀蛍はびくりと肩を跳ねさせ、ぽかんと答えた。

「雨宮家の後継者、雨宮千之ですけど」

藤原承弦が急に顔色を変えた理由が分からず、蛍は余計な油まで注ぐ。

「先輩、見てくださいよ。あの女、周りに男がひっきりなしで声かけてきて……絶対まともじゃ――」

「もういい」

藤原承弦は扉を押し開け、足早に出ていった。

デッキで、林田朔夜はこめかみを押さえたくなる。

声をかけてくる人間が途切れない。彼女はそのたび、丁寧に、しかしきっぱりと断った。

こういう場に慣れていないわけ...

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