第86章

エレベーターが上がっていく。

藤原承弦は箱の中に立ったまま、表情ひとつ動かさない。

ふいに、昨日の朝のことを思い出した。林田朔夜が出かける前、振り返って言ったのだ。

「今夜、早めに帰ってきて。サプライズがあるの」

あのときの彼女は、目がきらきらしていて、口元には隠しきれない笑みが浮かんでいた。

サプライズ。

いったい、何だったのか。

――もう、どうでもいい。

彼女は今、彼を見る目が冷たかった。憎しみすら滲んでいて、まるで人殺しでも見るみたいに。

承弦は目を閉じ、映像を押しつぶすように奥へ沈めた。

チン、とエレベーターが止まる。扉が開き、彼は廊下へ出た。自分の部屋の前に立つ...

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