第91章

「いいよ、分かった」

そう口では言ってやった。

でも――これ以上、あたしに藤原承弦の世話をさせようなんて。寝言は寝て言え。

林田朔夜は氷みたいな顔のまま、藤原承弦からの電話をぶつ切りにした。

ノートPCすら持たず、着替えを数枚だけざっとまとめて、そのまま階下へ降りる。

ロビーには周防補佐が先に待っていて、朔夜の姿を見つけるなり、ほっと息をついた。

H島行きの機内で、林田朔夜は終始目を閉じていた。

話したくない。見たくない。関わりたくない。

寝たふりが、いちばん楽だ。

隣の席で藤原承弦が、じっと彼女を見ている。

閉じた瞼。睫毛が落とす淡い影。わずかに寄った眉間は、夢の中です...

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