第92章
林田朔夜は藤原承弦が眠れたかどうかなんて気にも留めなかった。自分は、よく眠れた。
翌朝。まだ薄暗いうちに起き出して、鏡の前に立つ。丁寧に下地を整え、眉を描き、リップの輪郭まできっちり取った。
藤原承弦が「気晴らしに来い」と言ったのなら、遠慮なく気晴らしをしてやる。会議だの何だのは、そのあとでいい。
もともと眠りの浅い男は、物音で目を覚ましていた。
寝室の扉口に立ち、鏡に向かって眉を引く朔夜を見つめる。その横顔に、胸の奥がざらつくような、言葉にできない感情が湧いた。
「朔夜、昨日は眠れたか?」
掠れた声だった。
「よく眠れた」
「俺は……駄目だった」
藤原承弦が近づいてくる。...
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