第10章

誠治と山口調査官が慌ただしくオフィスを飛び出した。

「山田院長は今どこに?」誠治の声は、怒りと悲しみで掠れていた。

山口調査官は腕時計に目を落とす。「病院を出る準備をしているはずです。我々の者が、オフィスで証拠を整理しているのを確認しています」

その時、廊下の突き当たりに山田晴彦の姿が現れた。彼は黒いスーツケースを引き、足早に歩いている。明らかに混乱に乗じて逃げ出すつもりだ。

「山田院長」誠治の声が、がらんとした廊下に響いた。

山田晴彦は足を止め、ゆっくりと振り返る。彼は依然としてあの慈悲深い笑みを浮かべ、まるで何事もなかったかのようだ。

「おお、誠治君。こんな遅く...

ログインして続きを読む