第14章

伊藤忠は首を横に振った。「いえ、社長が風邪をひいたそうで、風邪薬をもらってくるように頼まれたんです」

「ああ、そうなの。そうだ、社長の奥さんの体調、どうなったか知ってる?林田翔太が会わせてくれないのよ」

「私たちも詳しくは……。社長にお聞きになった方がよろしいかと」

「社長が薬を急いでいるので、これで失礼します!」

中で聞いていた私は、はっとした。林田翔太は今、明明と別の県に出張中のはずなのに、どうして薬を急いでいるというのだろう?

それに、薬が必要なら出張先の街で買えばいいのではないか?

その瞬間、不吉な予感が脳裏をよぎった。林田翔太はそもそも出張に行っていない、あるい...

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