第212章

部屋に戻ったところで、不意にスマホが震えた。画面に表示された名前を見て、私は思わず息を呑む。なんと小村望からだった。

一瞬、思考が停止する。きっと、陽菜を早く連れ戻したいという催促に違いない。

確かにこのところ、あの小さな中庭の件で数日ほど足止めを食らっていた。陽菜の学校もじきに始まるし、小村望が焦るのも無理はない。

しかし、電話に出た私の耳に飛び込んできたのは、予想外に騒がしい雑踏の音だった。

「由依ちゃん、僕はもう出発して仁和市に向かっているところだよ。君も普段忙しくて陽菜の面倒を見るのは大変だろうから、僕が直接迎えに行くことにしたんだ」

「明日の朝の便で着くから、住所を送って...

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