第276章

その出来事はまるで悪夢のように、私の心の奥底に巣くっていた。

 上村愛美がウイルスに感染しているかもしれないと知ってから、まともに眠れない日々が続いている。友人と過ごす時間だけが、その不安を一時的に忘れさせてくれた。

 私の言葉を聞いた西田蓮は、ふと周囲に視線を走らせた。

 幸い、周りには誰もいない。

 このフロアはもともと閑静で、店員も滅多に邪魔しに来ない場所だ。

「ここでその話をするのか?」

 西田蓮は私に向かって片目を瞑ってみせた。

 その茶目っ気のある表情は彼を随分と活発に見せ、普段のあの横柄な社長としての姿とは正反対だった。

 私は思わず吹き出した。

「他にどこが...

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