第286章

黒いトレンチコートを纏った、長身の彼。

その立ち居振る舞いからは、成熟した大人の男としての品格とオーラが漂っている。

横顔からはかつての青臭さが消え、より一層英俊になっていた。

一瞬、昔の彼を見ているような錯覚に陥る。

少女時代の、胸がときめくような記憶が蘇ってくるようだ。

「由依、どうしたの? 泣きそうな顔して」

小林奈菜に声をかけられ、視線を追うと、外で電話をしている西田蓮の姿が目に入った。奈菜は呆れたように言う。

「ちょっと離れただけでもう寂しいわけ?」

私は思わず言葉を詰まらせた。

「違うの、奈菜。ただ……もしあの時、あんなに沢山の誤解がなかったらって、そう思ってし...

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