第288章

「ここの階段、剥き出しのままだと見栄えが悪いですね」

 スタッフの言葉を耳にして、私は慌てて涙を拭い、奈菜ちゃんにそっちの対応をするよう目で促した。

 ふと過去の出来事が脳裏をよぎり、胸が締め付けられるような思いに駆られたとしても、今は奈菜ちゃんの大事な仕事を邪魔したくなかったから。

 しかし奈菜ちゃんは私を一瞥すると、強引に私の手を取って階段の方へと引っ張っていく。

 きっと、今の私を一人にしておくのが心配だったのだろう。

 連れてこられて初めて、会場内に独立した階段が設けられていることに気がついた。

 おそらく、ランウェイを歩く際の動線を考慮した設計なのだろう。

 奈菜ちゃ...

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