第29章

林田翔太のオフィスに足を踏み入れた途端、数人が駆け寄ってきた。

「お姉さん、どうしていらっしゃったんですか?」

そちらに目をやると、林田翔太のいとこである西野賢太がスーツ姿で、丁寧な物腰で私の前に立っていた。

田中奈美が林田翔太に電話で知らせ、彼が私をあしらうために会社に連絡して人を寄越したのは明らかだった。

「いえ、別に。ずいぶん来ていなかったから、帳簿を見たいと思って。財務部長を呼んできてちょうだい」

西野賢太の瞳の奥は暗く濁っていたが、すぐに頷いた。

「分かりました。少々お待ちください、お姉さん」

そう言って彼は出て行った。

私は西野賢太の後ろ姿を見つめながら...

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