第462章

 男は全身、黒のトレンチコートに身を包んでいた。中に着ている服もズボンも、頭に被った帽子までも、全部が黒。

 顔立ちは、ほとんど見えない。

 その姿を目にした瞬間、ぞわりと頭皮が粟立った。この人は危ない――そんな直感だけが、冷たく背筋をなでていく。それなのに、男の手から一枚の紙切れが、するりと車の窓の隙間に差し込まれた。

 次の瞬間、男は踵を返していた。慌ててドアを開けて追いかけたけれど、角を曲がった先から、その影は跡形もなく消えている。

 あまりに一瞬の出来事で、頭が追いつかない。私はその場に突っ立ったまま、指先で紙片をぎゅっとつまみ、しばらくの間、完全に我を忘れていた。

 その...

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