第538章

汐音の顔にはっきりと気まずそうな色が浮かんだ。まさか拒絶されるとは思っていなかったのだろう。

私だって馬鹿ではない。彼女の魂胆など、とうの昔に見抜いている。

この年頃の小娘はとにかく自己評価が高いものだ。好きな相手がいれば、恋人の有無などお構いなしに果敢にアタックしていく。

汐音はそこまで露骨な態度はとっていなかったものの、その暗躍ぶりは全てを物語っていた。

私はやれやれと首を振り、車のキーを取り出して指先でくるりと回した。

「北村さん、これ受け取ってください」

汐音は有無を言わさず私の胸に荷物を押し付けると、目を真っ赤にして走り去っていった。

いかにも庇護欲をそそる可憐な姿だ...

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