第632章 栞

奈菜が思い出しかけたところで、あいつに話を遮られたらどうする――

嫌な想像が頭をよぎる。

幸い、店員は空気の読める人だったらしい。奈菜が何か考え込んでいるのに気づいたのだろう、料理をテーブルに置くと、そのまま足早に去っていった。

私のほうは食欲なんてほとんどなかった。箸で二、三口つついただけで、肘をついて頬杖をつき、奈菜が思考を巡らせる様子をじっと見守る。

しばらくしてから、奈菜が、はっとしたように自分の額をぴしゃりと叩いた。

「思い出した。社員のひとりに教えてもらったんだ」

「そのとき、ちょうど私が蚕の糸の産地を調べててね。その社員が、あの山村のことを教えてくれて、それでネット...

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