第102章 夢を見るな

三十分後、谷口美桜は段ボール箱を抱えたまま葉山グループのビルを出た。

入社してまだ日が浅い。私物も、たかが知れている。

ロビーでは、何人もの社員が視線を投げてくる。ひそひそ声ですらない。わざと聞こえる音量で、好き勝手に言い散らかしていた。

「クビだってさ。ざまあ」

「山﨑社長に目をつけられたら終わりだろ。誰が雇うんだよ」

「ずっと他人の論文パクってたんだって。最悪」

谷口美桜は前だけを見て、出口へ向かう。まるで何も耳に入っていないみたいに。

誰かがスマホを掲げ、撮影を始めた。

「撮れ撮れ。今バズってるし、伸びるぞ」

その声に、彼女の足が一瞬だけ止まる。けれど振り返らない。

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