第110章 売らない

オークション会場の視線が、一斉に谷口美桜へ突き刺さった。

さきほどの山﨑蓮の言葉は、誰の耳にも入っている。つまり――この一連の機材は、谷口美桜が山﨑グループから「盗んだ」ものだと言いたいのか。

だとすれば、盗まれた品。

参加者たちは落ち着かず、椅子の上で身を固くする。そんな中、葉山賢人だけがすでに立ち上がり、谷口美桜のそばへ歩み寄っていた。

「泥棒、ですって?」

谷口美桜は鼻で笑い、すぐ壇上の司会者へ視線を向ける。

「前田さん。オークションハウスのほうで、私が機材を購入した際の手続き書類を提示してください。お願いします」

オークションハウス側は想定済みだったのか、間髪入れずにフ...

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