第172章

結局、谷口美桜は山本由樹を五つ星レストランへ連れていけなかった。

山本由樹が選んだのは屋台だった。谷口美桜が駆けつけたとき、何度も顔を上げては「場所を間違えたのでは」と疑ったほどだ。

「こっち!」

声のした方を見ると、山本由樹が手を振っている。今日は珍しく黒いコート姿で、谷口美桜は一瞬、本人だと気づけなかった。

近づいてようやく、コートの下に花柄のシャツが覗いているのが見える。視界がぐらりと暗くなる。

――とはいえ、秘書歴も長い。どんなタイプの人間も見てきた。谷口美桜はすぐに表情を整えた。

「山本さん。五つ星レストランに行くんじゃなかったんですか」

プラスチックの椅子を引き寄せ...

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