第192章 隠し駒

前田大世がその依頼を受けた瞬間、指先が震えた。

50万。

相手は先に手付金として20万を振り込み、成功したら残りの30万を払うという。

金がない。どうしようもなく、金がない。

母親は入院中で手術費の支払いを待っている。娘の学費は2か月滞納。妻は毎日怒鳴り散らし、「男として情けない」と突き刺してくる。

この50万があれば、いちばん苦しい時期を越えられる。

前田大世はデスクに座り、モニターの数値を見つめた。指はキーボードの上で宙に止まる。

数字をひとつ――いじるだけでいい。

あのデータを少し下げれば、新薬のデータの流れに綻びが生まれる。第三者検証の段階で、必ず誰かが気づく。「デー...

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