第206章 彼は何でも知っている

山﨑蓮は振り返らなかった。ドアを押し開け、そのまま真っすぐ去っていく。

廊下の明かりが顔を照らした瞬間、ふいに目の奥がじんと痛んだ。

オフィスでは、谷口美桜が封筒を開ける。

中に入っていたのは一通の手紙。紙は黄ばんでいて、折り目は乾いて脆そうだった。

筆跡は、大野直哉が渡してきたあの手紙とまったく同じ。けれど、書かれている内容は別物だった。

最初から最後まで読み終えたところで、美桜の指先が震え出す。

短い。ほんの数行。

『美桜へ。この手紙を、あなたが読む機会が残っているかどうかは分からない。

あなたの出生が、今の生活に影を落としませんように。私たちにできることは少なく、せめて...

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