第209章 命は長くない

大野直哉の表情は、ぴくりとも動かなかった。

「もう渡しただろ」

「それは偽物。私が見たいのは本物」

谷口美桜は、同じ言葉をもう一度なぞる。

大野直哉はどこかうんざりしたように、美桜を見た。まるで聞き分けのない子どもを見る目だ。

「美桜、何を言ってる。あれはお前の母親の直筆だ」

谷口美桜は彼の向かいに腰を下ろし、交渉の席につく。

「おじさん。本物は私の手元にある。内容も覚えてる。消したいなら、読み上げてあげようか?」

大野直哉は俯いたまま、長い沈黙を落とした。やがて、ふう、と息を吐く。

「……どこで手に入れた」

「そこは重要じゃない」

大野直哉は車椅子の背にもたれ、窓の外...

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