第37章 取引成立

谷口美桜の視線は静かに、ベッドに横たわる下山柚奈へ落ちた。

下山柚奈は瞬時に表情を整える。

「美桜? どうして来たの? 手、少しは良くなった?」

包帯の巻かれた彼女の手と足に目を走らせる。口調はいたわるように柔らかいのに、瞳には笑みがない。

谷口美桜は近づかず、その場に立ったまま言った。

「言ったでしょう。取引の話をしに来たの」

「取引?」

下山柚奈は眉をわずかに上げる。

「美桜、何のことか分からない。私たち、いま何を取引するの?」

「ある」

谷口美桜は手にしていた書類フォルダを開き、1枚抜き取ってベッド脇へ置いた。

「私の退職願。もう人事に提出した。手続き上、最後に山...

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