第2章
藤原羽は慌てて布団を巻きつけ、恥ずかしさと驚きで目の前の男を見つめた。
高橋寒は頭痛に悩まされながら、昨夜の出来事を思い出そうとしていた。
床に散らばる衣服とベッドの上の鮮やかな血痕を見て、彼はすぐに何が起こったのかを理解した。
高橋寒の深い目が微かに細まり、彼の脳裏にはこの女性が泣きながら許しを求める声が浮かんだ。彼女の魅惑的な姿は、彼に激しい欲望を呼び起こし、薬の効果で完全に自制心を失ってしまった。
高橋寒は藤原羽を一瞥し、「昨夜のことは申し訳ない。運転手を手配したから、まず君を送って行く。この件についてはきちんと説明する」と冷淡に言った。
藤原羽は彼の冷たい態度に少し怯えながらも、顔を赤らめて恥ずかしそうに「はい」と答えた。
彼女は布団をめくり、床の服を拾って着替え始めた。高橋寒は何気なく彼女の背中を見たが、その肩に目立つ傷跡があるのに気づいた。それはまるで火傷の跡のようだった。
高橋寒は視線を淡々と戻し、ベッドのヘッドボードに寄りかかって煙草に火をつけた。藤原羽が部屋を出た後、彼は携帯電話を取り出し、助手に電話をかけた。「昨夜のことを調べろ!」
彼が宿泊しているホテルにまで忍び込み、薬を使った卑劣な手段を使ったのは、きっと彼をよく知る人物に違いない。もしその人物が判明したら、絶対に許さない。
シャワーを浴びているとき、彼はいつも身につけている玉のペンダントがなくなっていることに気づいた。
その白い玉のペンダントは、母親が彼の幼少期に寺院で求めたもので、丸い形をしており、高橋家の家紋が刻まれている。
まさか、先ほどの女性が持ち去ったのか?
温水希はホテルを出ると、すぐに病院へ行き、未払いの医療費を支払った。
その後、藤原家の裏庭の小屋に戻り、首の痕跡を隠せる服に着替えて学校へ向かった。
藤原家の裏庭にあるその低い小屋が温水希の家だった。豪華な藤原家の別荘が前に立ちはだかり、常に日陰で冷たい場所だった。
彼女の父、温水従道は藤原家の運転手で、母の野口美和は藤原家の家政婦だった。
父が亡くなった後、彼女と母はこの古びた小屋に移り住んだ。
午前中のA大学の授業が終わると、温水希は急いで学校を出た。毎日、藤原家の仕事を手伝うために急いで帰らなければならなかった。
今朝、学校へ行くときに木村管家が皮肉交じりに、放課後すぐに帰るように言った。30分以内に帰らなければ、彼女と母親を藤原家から追い出すと言われた。
校門を出たところで、青いスポーツカーが急ブレーキで彼女の横に停まった。
温水希は運転席の男を見て驚いた。A大学の有名人、林真也だった。
彼女とは全く接点のない富豪の息子だった。
最近、林真也はいつも彼女に絡んできた。
「後輩、そんなに急いでどこへ行くんだ?」林真也は片手で窓枠に寄りかかり、邪気のある笑みを浮かべた。「送って行こうか?」
温水希は眉をひそめた。彼のような人と関わりたくなかったが、バスに乗っても間に合わないことは明らかだった。
迷った末に、彼女は決心して車に乗り込んだ。「ありがとう」
青いスポーツカーは疾走した。
車内で、林真也はバックミラーを見ながら言った。「家はどこだ?」
「南町長安通りの別荘地」
林真也は眉を上げた。そんな偶然があるのか?今朝、高橋四郎が言っていたことも、その地区のことだった。
彼は微笑んで、それ以上は聞かなかった。
30分後、車は天和苑別荘区に入った。「温水希、君の家は何号館だ?」
「ありがとう、林様。ここで降ろしてもらえればいいです」
林真也は車を止めず、温水希の住んでいる場所を知りたかった。「言わないなら、ずっとここを回り続けるぞ」
温水希は仕方なく、「あそこ、角を曲がって7号館です」と答えた。
7号館……
林真也の瞳が細まり、その目には深い意味が込められていた。藤原家?


















